紙をめぐる話|紙について話そう。 No.2
祖父江 慎・有山達也
グラフィックデザイナー、アートディレクター
 ・ グラフィックデザイナー、アートディレクター
エディトリアルというジャンルで
それぞれに活躍するデザイナーたちが、
見本帖で出会いました。
実はほぼ初対面のふたり。
今回は「本」について話し合います。
2009.09.03
初出:PAPER'S No.33 2009 秋号
エディトリアルというジャンルで
それぞれに活躍するデザイナーたちが、
見本帖で出会いました。
実はほぼ初対面のふたり。
今回は「本」について話し合います。
2009.09.03
初出:PAPER'S No.33 2009 秋号
有山
祖父江さんもやっぱりそうだと思うんですけど、エディトリアルの人って、話しているとどんどん本文の話になっていっちゃうんですよね。ベースは本文紙じゃないですか、僕らは。
祖父江
そうなんですよ。外側はあとまわしですね。
有山
まず本文紙を決めて、それに合わせて周りを決めていく。外側から先になんとなく「こういう感じ」っていうのがたまにありますけど、基本は中をつくってからです。フォーム設計をして、というのと一緒ですからね。
祖父江
本って一番触っている時間が多いのは本文ですものね。この内容に合うのはこの紙かな、というのがまずあって、それからやっと外に広げて使う用紙を考えていきますよね。
有山
そうですよね、基本はそうです。
バーコード問題。
祖父江
外まわりだと、最近は紙らしい感じの、素材感まるだしなものやデコボコしたものの人気が高いような気がするんですけど、どうですか?
有山
例えばどんな感じですか?
祖父江
デコボコなものだとタントセレクトシリーズとか、あるいはレザック96オリヒメ羊毛紙とか。素材感ならファーストヴィンテージ。紙らしい表情をもっています。人工的でなくて、自然な風合いがある。この紙はつくるときに、テスト紙とかを見たりして、アドバイスさせてもらったんですよね。
有山
ファーストヴィンテージは僕も使いますね。値段もおさえつつ、斤量もそろえてあるし。力が入っている感じがしないというか、「デザインしたぞ!」って感じにならないところもいい。それから、スーパーコントラストのスーパーブラックもよく使います。見返しとか本表紙とかに、そのまま使っちゃうことが多いですね。印刷するときはオペークか白で、紙を活かすように。あるいは黒を刷ったこともあります。あとはプライクもいつか使ってみたいなあ。表面がコーティングしてあって、今までにない質感ですよね。
祖父江
プライクは気持ちいいですよね。憧れの紙です。
有山
逆に、いつも使ってみたいんだけど、どうしても使えないのが、リアクションみたいなキラキラした紙ですね。一回使ってみたいなと思うんだけど、ミニサンプルを見ては絶対無理だな、とそのまましまっちゃう(笑)。たまにはいつもと違う、ど派手なものを着たいっていう気持ちに近いですね。ちょっと鬱屈したところがあるんじゃないですか(笑)。
祖父江
リアクションもいいですよね。ただ本って平たいから、リアクションのもつ偏光の効果が出にくいこともありますよね。服みたいに膨らんでいたり、締まったりするといいのにね。
有山
ただ最近はなかなか表紙に色紙が使えないんですよね、バーコードがあるから。基本は白系統の紙からスタートする考え方になっちゃってる。本来は、読み取れれば大丈夫なんですけどね。
祖父江
そうそう。赤とか青とか、紙そのもののすごいきれいな色を使いたいと思っても、バーコードの部分に白が必要だから、色は印刷するしかないということが哀しいですよね。
有山
今は色紙は刷らないものになっちゃってますからね。バーコードの問題が少し解決されれば、もっと色紙を使う人が増えると思います。やっぱりブックデザインだと、色紙の可能性はすごく広いし。
祖父江
昔は、清原悦志さんたちが色紙に不透明なオペークインキを使って、不思議な存在感の本を多くつくってましたが、バーコード導入以降は見ることがなくなってしまいましたね。
有山
今はないですからね、ああいう質感が。
祖父江
僕は、本には内容に似合う形がもっといろいろあっていいと思うんです。だけど、どうしても値段やバーコード、流通の問題で、同じようなものにしかなっていかない。紙はいろいろあるのに、結局使えるのは一握りしかない。なんとか内容ごとにそれぞれの表情の本が出てきてほしいなあと思います。
内容ごとの「物体感」が出てるといいよね。
祖父江
本ってインターネットとは違って決まった形をもつ物体なんだから、テキストや画像の「形になったよろこび」「生まれたよろこび」がもっとあってもいいと思う。読む人のマシンや環境で変わることのない「読むための物質」っていうのがなんか面白い。単に「出力したものをただ綴じてある」っていう本が増えるのはどうなんだろう?その良さもあるとは思うけれど。
有山
僕の「物質感」の捉え方は全然違いますね。むしろ、さっき祖父江さんが言ったように「出力したものを束ねた」というのに近いかもしれない。
祖父江
なるほど、粋ですね。でもやはり内容は無視できませんよね。テキストが何であっても新書みたいに何でも同じってわけにはいかないし。
有山
僕もいつもさっぱりしたいわけじゃなくて、たまにくどいものをやりたくなりますよ。
祖父江
くどいのをやってるつもりじゃないんだけど…(笑)。でも、やり過ぎると、できたときに不気味になってしまいますから要注意ですね。
有山
でも時間が経つと逆にそういうのが…。
祖父江
いえいえ、変わらないですよ。やり過ぎは禁物です(笑)。
有山
祖父江さんは僕なんかより全然長くやってるのに、まだ全然飽きてないじゃないですか。僕、性格がかなり飽きっぽいんですよ。なぜこれだけ続けていられるのかなあ。ブックデザインの何が魅力なのかと改めて問われると、僕はすごく説明しづらいですね。ただ、いい意味でも悪い意味でも、最近はこだわりがなくなってきたというか…。
祖父江
昔はこだわったくちですか?
有山
自分なりにはですよ。でも今は、いかに内容が良く伝わるかが重要というか、デザイナーのくせにデザインからちょっと離れたところから本を見ているかなあと思います。逆に物質性や紙性からは離れているかもしれない。物質感ももちろん必要だけど、むしろその内容がどう伝わるか、内容をどうするかというほうに今は面白さを感じてます。
祖父江
制限のなかでの形のあり方を考えてるのは同じですね。有山さんは今あるシステムのなかでのやりくりと、それがどう伝わるのかというところに興味があって、僕は今ある現状に満足してないって感じですかね。寿司屋でいうと、有山さんは、「いいネタが入ったんで握ります」で、僕は「いいネタが泳いでたんで釣ってきます」っていう感じ(笑)。
有山
あはははは。
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有山
祖父江さんは、書店でどう見えるかって考えます?
祖父江
まあ女性のエッセイだったら「周りにピンクが多そうだな」とかっていうくらいは思い出すけど、書店でのPRは、そんなには考えすぎないようにしてますね。やっぱり読んでもらうときが軸になってる。
有山
僕も作るときに、あんまり目立とうっていうかたちからは入っていかないですね。もっと内容から紙を選んで、印刷を選んで、という感じ。
祖父江
目立つことから入ると間違っていってしまうよね。
有山
そんな本ばかりが棚に並んでたら、買った人の家のなかが大変なことになりますよ。どっちかっていったら、家のなかに入ってからのほうが、時間は長いわけですからね。もちろん売れたほうがいいですけど「目立つように」とはあんまり考えないですね。
祖父江
どちらかというと、その本が、まわりの本とはどんなふうに違うのかっていうところが大切ですよね。「目立つ本を買いに来ました!!」なんて読者はいないよね。でも、よく言われますけどね、「もっと目立たせてくれ」って。
有山
祖父江さんの本で「もっと目立て」ってどういうことなんですかね(笑)。
祖父江
字が読みにくいとかね。
有山
ああー(笑)。
祖父江
もっとタイトルを立たせてくれとか、読みやすくしろとか、ウェブサイトで表示されるから字が小さいと読めないとか言われる。でもウェブサイトなら横に文字があるし、CDジャケットとかは字を入れてなくても伝わるじゃないですか。なぜ字の可読性ばかりしか見てくれないのか意味が分からなすぎ! もっとていねいに考えてほしいですよ。
──最近はウェブサイトだと帯を取って載せることもありますよね。帯もデザインのひとつ、という考え方もありますけど、そのあたりはいかがですか?
有山
基本的に僕は一緒に考えちゃいますね。もちろん取ったときがベースですけど、帯の原稿も表紙と一緒に欲しいって必ず言いますし。
祖父江
僕は逆で、帯は言葉でないと伝わらないことと、売りたい気持ちをこめることを軸に考えてます。だから、「別物感」を大切にしてます。一冊の本をたくさんの人が応援している感じ。なので別人になって作るんですよ。「編集の人だったら、こうするかな。販売や宣伝の人だったら、こうするかな?」って。カバーデザインとは、一体化しすぎないように。ただ、応援がバラバラじゃあ意味がないから、そのへんだけは、なじませます。
有山
そういえば白ブームは終わったんですかね?あんまり僕は興味なかったんですけど、世の中が一時なんとなく白い紙白い紙って言ってましたよね。
祖父江
そういえば、ちょっと前に盛りあがってましたよね。ちょうどルミネッセンスが出てきたときは、上質ベースであれ、コート紙であれ、並んだときにどれが一番真っ白かっていう戦いで(笑)。
有山
「白色度」っていう表記がついたのも最近じゃないですか?
祖父江
そうかもしれない。でも「白色度」の数字って、人の眼じゃなくて機械の眼で計ってるから印象とは違うよね。今は、大体白ければいい感じ。
有山
そうですね。ヴァンヌーボのスノーホワイトぐらいであれば、もう「白」ですよ。ヴァンヌーボは、つい使っちゃいますね。単純に、カバーにしろ帯にしろ使いやすい。
祖父江
ああ、そこは同じだ。ヴァンヌーボVのスノーホワイト。発色がいい上にインキののりも安定してるし、値段だって昔は高いと言われていたけど、最近は、さすがにその品質の良さがわかってもらえるようになってきて、OKも出やすくなってきてますよね。
有山
そうですね、出ているからというのもありますけれど、今は高い紙になってない、他のファインペーパーの基準になっていますね。
祖父江
今は、どちらかといえば本文用紙のグレー化や、差別化に人気が集まってきている気もします。せっかくいろんな紙があるんだから、いつも同じものばかり使ってないで、もっと紙の違いも味わってほしいですね。ほどほどの同じような紙ばかりしか使われなくなっていくんじゃ「本のよろこび」もなくなっちゃいますよ。
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祖父江 慎
グラフィックデザイナー、 アートディレクター
そぶえ・しん。1959年愛知県生まれ。工作舎を経て、87年独立、93 年コズフィッシュ設立。ブックデザインを中心に、広告、グッズ等幅広く手がける。過去の全仕事を総括した『祖父江慎+cozfish』(ピエ・ブックス)を制作中。
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有山達也
グラフィックデザイナー、 アートディレクター
ありやま・たつや。1966 年埼玉県生まれ。中垣デザイン事務所を経て、93年アリヤマデザインストア設立。雑誌『ku:nel』のアートディレクションのほか、数多くの雑誌、書籍の装丁を手がける。

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