紙をめぐる話|紙について話そう。 No.3
菊地敦己・高野文子
アートディレクター ・ 漫画家
かねてより親交があるというふたり。
グラフィックデザイナーと漫画家が話し合う
今回のテーマは「表現と素材」です
2009.12.14
初出:PAPER'S No.34 2010 冬号
かねてより親交があるというふたり。
グラフィックデザイナーと漫画家が話し合う
今回のテーマは「表現と素材」です
2009.12.14
初出:PAPER'S No.34 2010 冬号
────おふたりは日頃どんな風に紙をお使いですか?
菊地
僕は普段は印刷用に紙を使いますね。ニュートラルな白味の、非塗工の紙に特色印刷をすることが多いです。アラベールとかもよく使うけど、今一番使っているのはGAスピリットですかね。それから、この間久々にヴァンヌーボ使ったら、意外と良かったです。印刷適性に優れた、すごくメジャーな印刷用紙ですけど、インキをのせたときの光沢が苦手で使っていなかったんです。でもこれはこれで良いかもしれないなと思いました。高野さんは漫画の場合だと、造本のときに紙選びに参加されたりはしないんですか?
高野
します、そう言えば。
菊地
そう言えばって(笑)。
高野
あんまり詳しく考えたことはないんですよ。原稿用紙も水色の罫の入っている、袋入りのです。確か2種類あってそれの薄いほう。トレスでペン入れをするので、光が透けるほうがいいんです。
紙とペンがあれば、アイディアを勢いそのままに定着できる。
高野
漫画の画材にも流行がありましてね。原稿用紙にマーメイドを使うのが流行ったことがあるんですよ。70年代前半かしら。あのでこぼこした紙にペンではなくてロットリングで線を引くんです。あたりまえだけどギザギザ揺れますよね?あれが流行った。この時期、美大出身の漫画家さんが増えてきましてね。おおやちきさんの巻頭カラーなんか、かっこよかったもんなぁ。マーメイドにドクターマーチンの肌色がきれいでね。憧れましたもん。
菊地
おもしろいですねえ。漫画はすごく線の太さの流行がありますよね。
高野
ありますよね。大友克洋さんの頃はみんなが丸ペンになったりしたし。今はサインペンやパソコンのほうが多いかもしれない。私はずっとスプーンペンです。筆ペンも使います。菊地さんに手伝っていただいた今回の絵本は筆ペンなんです。漫画と違って色がつくなら境界線は太い方が良いと思って。
菊地
僕は未だに、手で絵を描くときは、ほぼ筆ペンですよ。僕の場合は版をつくるっていう感覚に近いですけど。サリー・スコットのポスターなんかも、全部筆ペンですよ。図の部分を筆ペンで全部描いて、それをコンピュータに取り込んでいくんです。家の絵柄だったら屋根だけを描く、という具合に、パーツごとで別々に描いていく。木版画の版みたいな感じでつくって重ねるんです。印刷は一度版をつくればインキ次第で同じ絵柄でも違う色になるから、同じ版で色違いのものを数パターンつくったりもします。下描きもせずにいきなり筆ペンで描くこともありますね。コンピュータで描くことも多いですけど、コンピュータで描くと線の勢いを感じさせるためにいろいろと細工をしなくてはならないので。
高野
なにしろ筆ペンは仕事が速いですよね。頭に浮かんだものが消えてしまわないうちに紙に描き留めたいときは筆ペンがいい。かげ、かたちだけでも紙に写せる。今回の絵本は、筆ペンの黒だけでなく、アクリル絵の具をつけて線を引きました。初めてで楽しかったんですけど、手探りなので心配もあったんです。この本のお客様は4歳なのよね、いつものお客さんとは違うのよー、と自分に言い聞かせてましたね。かわいくない絵本ができたらまずいぞ、と。そこで、菊地さんをお尋ねしたんですよ。描き上がったのを全部持ってって「かわいくしてください」ってお願いしました。
菊地
今回の僕の立場はデザイナーというよりプリンティングディレクターに近かったんですよ。原画に再現されていた絵のカラーバランスみたいなものを、どうやって印刷に落とすかなあと考えながら、発色の具合や筆跡の出方なんかを地道につめていきました。ただこれ身も蓋もない話ですけど、読む人は原画見たことないですからね(笑)。だから印刷物がただきれいになればいいわけでもないし、原画そのままならそれが一番いいわけでもない。印刷物になったときに印象が変わらないで、内容がちゃんと伝わるっていうのが大事なので、その辺のさじ加減が大切なのかなと思いますね。
高野
そうだったんだ。今聞いて初めて知りました。いや実は私ね、完成した本見て「あれ?まんまじゃん」って思ったの。あれは、菊地さんが色々手をかけてくれたから、私には「まんま」に見えたのね。これはおみそれいたしました。
もう1回つくればいい。
菊地
このペーパークラフトのカマキリ(※)はすごい惹かれますね。これは、かなりいい。この展開図もなかなか描けないですよね。おもしろいなあ。
高野
ペーパークラフトは月に1回、地元の敬老会で工作サークルをやっているんです。カマキリは確か、細長い紙を3回折ると昆虫らしきものができそうだと思って始めました。色のついた厚紙でつくったんだけど、カッターで切ったときの断面が白いとちょっとがっかりするんですよね。
────こういうペーパークラフトは、どこから発想されたんですか?
高野
どうだったかな、なにしろ漫画に飽きてたときに(笑)、椅子の背にもたれて机の上の原稿見たら、遠くの四角が小さくて近くの四角が大きく見えた。それで近くに小さな絵を、遠くに大きな絵を描いて、切り込みを入れて指で起こして、片目つむって見たら、あら、遠いのも近いのも同じ大きさに見えるじゃない、なんてことをして遊んでたんですよ。
菊地
遠近法に気付いた、と(笑)。
高野
そうなんです。それをデジカメで撮ったんです。
菊地
高野さんから3年ぐらい前に「最近切り紙にはまってます」っていう年賀状をいただいたとき、「どうなることやら」と思った記憶があったんです(笑)。その年賀状は折り紙や千代紙を切って、コラージュしたものだったんですけど。だから『火打ち箱』が出たときには「あ、こんなところに来た!」と思いましたね。
高野
紙の良さって「しょせんは紙だ」って思えるとこだと思う。敬老会でもできた工作は持ち帰ってもらうんだけど、つくった当人がため息ついたりしてて、家に着いたらすぐゴミ箱だなって想像できることが多いの。それが布でこさえたもんだったりすると、ゴミ箱にある図が悲しいわけよ。でも紙なら悲しくない。紙が安いとは限らないんだけど、「どうせ紙じゃん、またつくればいいじゃん」って、捨てた当人が気を取り直せる気がするんですよ。自分が漫画描いてるときもよくそうしてたんで(笑)。そこが紙のいいところですよね。
いきなりカッターで、ピッと。
高野
『火打ち箱』をつくっているときに思ったんですけどね、こういうペーパークラフトのアイディアって、机に向かっちゃうと、あっという間に消えてなくなっちゃうんですよね。頭の中で紙がぱたんぱたんぱたんと起き上がって…みたいなのが出来上がって、画面もできて写真で見たらこうなるなっていうのがわかって、それから作業に入るんです。それが漫画とはえらい違うなって思いました。漫画はまず机に向かって、鉛筆を持って描きつつ、つくっていたんですけど、ペーパークラフトは鉛筆で下絵を描きだすと、いきなりアイディアがどっかに消えてしまって、出てこなくなっちゃう。
────それじゃあ『火打ち箱』は、下絵を描かずにいきなりカッターでピッと?
菊地
でも完成した『火打ち箱』は2枚の紙ですごく綺麗ですよね。
高野
これはNTラシャでつくりましたね。写真を撮るときに光を吸収するのでテカらないんですよ。だからちょうどよかったんです。
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色の重なりがつくる、平面の奥行き。
高野
一番最初に菊地さんとお会いしたのは、『広告』でしたよね。
菊地
ああ、そうですそうです。『広告』のときは本当に僕がただ単純にファンで(笑)。あのときは墨の原画だけいただいて、あとは僕が勝手にイジらせていただいたんです。
高野
そう、私は本当に原画だけ。
菊地
カラートーンでフォルムを描いたというよりは、ちゃんと部分的に原画のどっかにはまるような形にしているんですよ。絵柄の中から抜き出した形がどこかに反映されていて、それが散らばっている状態なんです。なんかこう、スクリーントーンを切り抜いた跡みたいな形がおもしろいかなあと思って。
高野
ああ、そうだったんですか(笑)。菊地さんて、こういう重なった色が好きですよね。
菊地
そうなんです。重ねてしまいますね。
高野
私もです。カラートーンの重なった色の具合が好きです。
菊地
なんか平面なんだけど、ちょっと奥行き感がある感じとかね。ちょっとだけ重なったりするじゃないですか、トーンを貼った同士のとこがちょっと重なっちゃった、という。あれがすごく好きですね。
高野
今回菊地さんにもご協力いただいて絵本をつくったんですけど、初めて真面目に色に取り組んだんです。たった24ページなんですけど、のろのろと描いては消し描いては消しやってたので、3年ぐらいかかってるんですよ、実は(笑)。
菊地
でも絵本では3年とかのスパンって珍しくないんですよ。
高野
そうなんですってね。最初は、出来上がりの4分の1ぐらいの紙に、文字も絵もそっくりにちまちまと小さな試作をつくったの。初めてだから、色を塗るときに現物と同じ面積塗って間違えたら、絵の具の減りが激しいな、と思って(笑)。それで、それをもって菊地さんのところに行って「これが大きな本になるのですけれど」って考えてもらったんですね。
菊地
もちろん最終の原画は、ちゃんと原寸で描かれたとても綺麗なものでした。だから「この発色感はちょっと生かしたいな」と思ったんですね。しかし黒の表現は難しかったですよ。
高野
今回、黒がものすごく多いんですよ、夜を舞台にした話なので。夜の暗闇を表すのに、光らないタイプの絵の具を使ったんですけど、これがべったり塗ってもムラになる。透けそうなところを紙を光にかざして「ああ薄い薄い」と思って重ねるんですけど、塗っても塗ってもムラになる黒でした。それで、そのままムラが出た方がいいか、それとも菊地さんがならしてくれるか、どっちかなあと思いながらお渡ししてお任せしちゃったんです。
────ムラは生かす方向で…?
菊地
中間ぐらいですね。あのままだとどうしても紙透けが出ちゃって、ムラが強くて面として見えない感じがしたんですよね。なのでだいぶ減らしました。専門的なことを言ってしまうと(笑)、CMYはフラットにしながら、スミで調子をのせていく…
高野
うへっ。全っ然わっかんない(笑)。
(※)高野文子さんのカマキリのペーパークラフト展開図(PDF)はこちらからダウンロードできます。お好きな紙に出力して作ってみてください。
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菊地敦己
アートディレクター
きくち・あつき。1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科中退。2000 年ブルーマーク設立。主な仕事に、青森県立美術館のVI計画、ミナペルホネン、サリー・スコットのブランド計画、矢野顕子のCDジャケットのデザインなど。
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高野文子
漫画家
たかの・ふみこ。1957年新潟県生まれ。78年頃から同人誌「楽書館」に漫画を発表し始める。主な作品に『絶対安全剃刀』(白泉社)『棒がいっぽん』(マガジンハウス)『黄色い本』(講談社)『火打ち箱』(フェリシモ)など。菊地氏装丁による絵本『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』(福音館書店)が2010年2月に発売。

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