紙をめぐる話|紙について話そう。 No.8
後藤繁雄・森本千絵
編集者 ・ アートディレクター
編集者とアートディレクターという、
自分を通して表現を紙へと
落とし込む仕事を日頃から
手がけているおふたり。
普段どのように紙に触れているかを
語り合いました。
2011.10.10
初出:PAPER'S No.39 2011 秋号
編集者とアートディレクターという、
自分を通して表現を紙へと
落とし込む仕事を日頃から
手がけているおふたり。
普段どのように紙に触れているかを
語り合いました。
2011.10.10
初出:PAPER'S No.39 2011 秋号
後藤
森本さんの仕事は、広告や出版物を中心に広がっているでしょう?でも作ったものにちゃんと質感が備わっているところが僕は好きなんですね。 例えば紙を、森本さんは素材として捉えてるんじゃないかなあと思うんです。 普通は紙見本から選ぶと思うんだけど、旅先で買ったものとか、包み紙とか、いろんなものをサンプルにしてて「この感じがいいのよね」「この分厚さがいい」とか、そういう感覚が根底にあるよね。
森本
うん、そうですね。 紙見本で指定することはあまりないかもしれない。私、古い地図が好きで集めてるんです。 「この匂いがいい」とか。 現物の地図を印刷会社に渡してしまうこともある。
視覚は、触覚の中のひとつ。
後藤
僕は学生時代に印刷屋でアルバイトをしているうちに編集者になりました。普通は文学とか情報とか、本の中身が好きでなるのかもしんないけど。元々はただ紙が好きなんですよ。本は質感があって成立していると僕は思う。この小説はこの雰囲気、この佇まいでないとイヤだなってあるよね。
森本
確かに。好きな紙の本って、読み終わるのが早いんですよ。体を通して理解していくというか。
後藤
デザインって、視覚的なものだと思われてるけど、触覚というものがあって、その一部に視覚があるんだもんね。 そう考えるほうが素敵じゃないかなあ。
森本
色気があっていいですね(笑)。紙質とは違うんだけど、デザインをする時にどうしても満足できなくて、全部出力して切り貼りをして、物体としてCDジャケットや本を360°回してみないと作れない時がある。
後藤
僕も写真集を作る時にはそうするよ。 まず出力するじゃない?床に並べて選んだら、自分では100万回テストって呼んでるんだけど、膝に挟んで丁合いをして、ペラペラと100万回くらい目を通す。 それをやらない限り編集なんてできないわけ。
森本
若いデザイナーの中には、トンボ付きの画面で初めから決めにかかってる人がいると思うんだけど。 画面上のスクロールじゃわからないですよね。
後藤
うん、もちろん!例えば写真集をめくる時、目線はまずは左ページに向けられて右へと流れていくんだから。そういうふうに編集しなきゃ上手くできない。
森本
ものとして触れないとデザインはできない。紙の風合いとか、香りによってデザインが動かされるというか。
後藤
調理みたいなものだよね。 仕入れたものがあって、それを混ぜて食う。 今はITとか情報とかを組み合わせていけばクリエイティブなものが生まれるような気がしてしまうけど、力を発揮するには質感とか、具体的なものを知ってないとできないと思うね。
森本
うん。 何かしら摩擦みたいなものがないとデザインが生みにくいですね。
後藤
力をつくる上で素材をよく知る。 紙見本だけで紙を知るっていうのはなかなか難しいと思うから、世の中にあるもので知っていくことも大事だと思う。
森本
時々、紙見本として出したものが「それ紙じゃないですよ」って言われることもありますけど(笑)。
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からだで知った経験値が紙の上にあらわれていく。
森本
毎日続けている日記があって…これなんですけど…。
後藤
…やるねえ~!毎日描いてるの?毎日の新聞ってとこがスゴイ!徳島新聞…新聞も色んな所のなんだね。
森本
ロケとかで移動してる日もあるので。グチャグチャして汚いんですけど。こういうのをね、ずっとやってるんです。
後藤
すごいなあ、これだけで展覧会できるなあ。森本千絵365日展、みたいな。これを印刷物にするとしたら、やっぱり新聞紙サイズじゃないとダメだよね?
森本
前、出力してみたんだけど、この大きさじゃないと納得がいきませんでした。
後藤
「この大きさじゃなきゃダメなんです」っていうのは、もはやプロよりうるさいアマチュアだよね。僕らさ、すべてのものに対して世の中の「プロと呼ばれている人よりうるさいアマチュア」だと思うんだよね。「ダメ」「感じないね」とかさ。
森本
あ~確かに。
後藤
そういうの大切だと思う。今、できないことを早く決め過ぎだよね。やればいいと思うのに。みんな大人なんだからさ、必死になって開発すればどんなものでも作れるのにね。だから、僕とか森本さんが言い続ければ、素敵なものができるんじゃない?
森本
そうですね。 私、あんまりあきらめたことがない。
後藤
知ってるよ、全然あきらめないじゃん、あなた。 若い人はさ、コレはこんなもんでしょ?って保守的だからさ。
森本
なんでですかね?
後藤
「素敵なもの」の経験度が低いんじゃないかな。 例えばさ、「海だったらこんな色」っていうけど、全然違うじゃん。 深くて暗い海もあるし。 なんか出てそうな海もあるし。 同じ色の海なんてひとつもない。 視覚ではこの限度しか見えないんだけど、能力があったらもっと見えるはずだっていうのがいっぱいあるじゃん、世の中に。
森本
頭が先に決めちゃうんですかねえ。
後藤
触覚的じゃないんだと思う。触ればいい、体で。
森本
溺れたりしてね(笑)。藻が臭いとか。
後藤
そうそう。 それから視覚で決めればいいのに。
森本
たしかに、色を決める時とかデザイナーに言っちゃいますね、「もうちょっと臭い感じ」とか。でもそれを言われてもわからないでしょうね(笑)。 体験してないと。
後藤
そうだよ、食ったことないのに「この料理は◯◯だ」って言うようなもんだね。
森本
そういう経験が豊富な印刷会社のプリンティングディレクターのほうが理解ありますよね。いろんなもの食べたり、いろいろと出かけている人。その色、作ってやる!ってくらいの人っていいですよね。私の作品集を作った時に、色を作ってもらったんですよ。「森本千絵缶」のインキができました。青の。
後藤
そうね。印刷会社の人は、あきらめない職人魂を持ってる人がいいなあ。「やってみまひょか~」みたいな。
森本
大変だね、後藤さんの傍にいる人は。
後藤
君だってそうじゃないか(笑)
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葉っぱ、金属、破片を色見本に。
後藤
ヨーロッパの人たちの出版文化って、まったくあきらめてない。特にスイス、オランダは、デザインもいいし、今、一番かっこいい。今週、フランクフルトのブックフェアに行くんだけど、いろんなものがあるよ。手刷りでアートブック作ってるところとか。以前行った時に、百科事典を作ってる歳とったおばさんがいてね。その百科事典なんだけど、薄くてたくさんあるの。全部で120万円、分冊はしませんって。欲しかったけどねえ。ブックフェアで面白いのは、フランス語とかドイツ語、スイス語、イタリア語ってふうにいろんな言語の書物が集まっていること。パッと見ても言語なんてわからない。でも「これは僕を呼んでいる」っていうようなものがあるんだよ。ただの活字なのに。
森本
読めない本、私もいっぱい持っています。海外へ行くとまず本を買うんですよ。あ、そうだ見せたい本が…。これです。これに日記をね…
後藤
また色々と挟んでる…(笑)。わあ、このページすごいね。
森本
ワインのラベルを貼って、オリーブオイルを垂らしただけなんですけどね。
後藤
ちょっと甘い匂いがするね。これは何の本?
森本
これはね、マオリ族の聖書です。
後藤
ヒドイなあ(笑)。こういうのをみて「素敵だなあ、あんなのやっていいんだ!」って思う女の子が生まれてくるかもしれないね。
森本
私、はじめての海外ロケの時に、スーツケースいっぱいに本を買ったんですよ。で、やっぱりその時お土産に買ったダチョウの卵と一緒にスーツケースに入れたらやっぱり割れちゃって。全部、本の中にダチョウの黄身が流れこんで……
後藤
黄身?その卵、本物だったの?
森本
はい。それで本が全部ペッタペタになって…(笑)。くっついちゃってるからその本を全部、1ページずつ開いて、ドライヤーで乾かしたんですけれど、それがパリッパリになってかっこいいんですよ。
後藤
やるねぇ。僕もそういう経験あるよ。本とワインを一緒に袋に入れたら、中で割れちゃってね。それでワイン臭い本っていうのを持ってるよ。
森本
かっこいいですね。
後藤
かっこいいよ、赤くて(笑)。あ、あと、海外へ行くと葉っぱを拾ったら本に挟むの。そうすると葉の液が紙に染みてくるの。あれもかっこいい。紙見本の話に戻るけど、葉っぱとかを見せて、紙を指定するような人がいてもいいと思うんだよね。例えば、黒いものだけ集めた色見本があったらどう?同じ黒でも、テープとかペンキとか金属に塗る場合ってそれぞれ色が違うじゃない。そんな現物見本帳があれば、もっと表現が豊かになると思う。
森本
箱の中にバサッと入っていたり?
後藤
そうそう、色いろなものの破片が入っているの。
森本
いいですねえ。光を通すとまた違いますしね。生活の中で見つけたもので指定するほうがいいですね。色見本が先にあると迷いはじめちゃって決められないんですよ。先に理想がある時は、見本で見つけやすいんだけど、漠然と見本だけを見ていっても、どこを大切にしていったらいいかわからなくなっちゃう。質感が好きな物を買い集めたり拾ったりしています。私、おばちゃんの衣服店でもイイもの見つけられる自信ありますよ。
後藤
いきなり何の話を(笑)。可愛いものってこと?
森本
そうそう。温泉街とかにあるような、980円均一とかで、ヒョウ柄と花柄が混じっちゃってるオバチャン服(笑)。全部触っちゃうの、すぐ。シュワシュワしたりした生地とか、どうやったらこんなテロテロになるんだろうって興味がある。着こなす自信もあります。
後藤
まかせといてよって感じね。
森本
どんな状況でも興味があるものを見つけるっていうか。集めてるとこんな空間になっちゃうんですけど(笑)。
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後藤繁雄
編集者
ごとう・しげお。1954年大阪府生まれ。 編集者として坂本龍一、篠山紀信、蜷川実花らの独創的な写真集、アーティストブックを数多く制作する。展覧会のプロデュースをはじめ、文化庁メディア芸術祭やアートアワードトーキョー丸の内の審査員を務めるほか写真とグラフィック専門のG/Pギャラリー(恵比寿)、g3/(トリプルジー)(3331アーツ千代田内)を主宰する。2011年よりアートフェアTOKYO FRONTLINEをオーガナイズするなどコンテンポラリーアート、コンテンポラリーフォトの動向に深くかかわる。
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森本千絵
アートディレクター
もりもと・ちえ。1976年青森県生まれ東京育ち。 1999年博報堂に入社。 2006年に史上最年少の東京ADC会員に。 2007年に独立して株式会社goen゜(ゴエン)を設立。最近の主な仕事に、SONY企業広告「make.believe」の一連の展開、サントリー缶コーヒー広告「BOSS SILKY BLACK」がある。 Mr.ChildrenなどのPVやアートワークを手がける。著書『GIONGO GITAIGO JISHO』。N.Y.ADC賞をはじめ受賞多数。

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